レターポットが毎日新聞社説に
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https://mainichi.jp/articles/20180117/ddm/003/070/134000c
コーヒーを飲んだ後、懐に余裕のある人はレジで自らの代金を払い、さらにもう1杯分のお金を支払う。先払いされたコーヒーは、後になって店を訪れるであろう、お金に困っている誰かに無料で振る舞われる。
「恩送りのカフェ」と呼ばれるこの習慣は、第二次大戦中のイタリア・ナポリで生まれたと言われる。小さな善意の連鎖によって人々の分断や孤立を防ぎ、地域社会の連帯を取り戻す活動だった。
この発想にならい制作されたとみられる映画が2001年公開の「ペイ・フォワード」だ。世界を変えたいと願う少年が主人公だった。
そして今、お笑い芸人で絵本作家でもある西野亮広(にしのあきひろ)さん(37)が、恩送りを実践しようとしている。
晴れ着業者の閉店で被害にあい、落胆する新成人のやり直し成人式を来月4日に横浜市で開く。貸衣装と着付け、髪のセット、記念撮影は無料で、船を借り切ったパーティーも主催する。費用はすべて西野さんもちだ。
彼のインターネット上での発言にはうなった。
「大人になる日に大人が裏切ってしまったことを、同じ大人として、とても申し訳なく、恥ずかしく思っています。本当にごめんなさい」
「大人が面白くない未来は面白くないので、今回失った信用はキチンと取り戻したいと思います」
ニュースに腹を立てた大人の一人だが、これほどの思いには至らなかった。
西野さんは実業家の顔も持ち、ネット上で手紙をやりとりする「レターポット」を昨年末に始めた。その利益を費用にあてるという。
この新ビジネスのテーマが実は恩送りなのだ。
1文字5円を払って「レター」を買い、誰かに感謝や応援の気持ちを送る。相手に手紙が届き、字数分の「レター」もたまる。その人はお礼の返事は送らず、もらった「レター」を使って別の誰かにまた手紙を届ける。
こうしたやりとりがつながり、どんどん広がっていくのが狙いだ。「レター」には、ビットコインなどの仮想通貨のような換金機能はない。
事業の認知にもなるので、西野さんは「僕にもメリットがある。お礼も返事もいらない」と言っている。
あくどい事件が生んだ小さな救いである。被害にあい、手をさしのべられた人がどこかの誰かに何かを送れば、もっと大きな救いに育つだろう。
そんな恩送りが連鎖する時、新たな何かが生み出されるに違いない。(論説委員)