ファスト・ファッション産業はだれの犠牲で成り立っているのか
ライフスタイル

ファスト・ファッション産業は本当に、いかなるときもサステナブル(持続可能)なのだろうか
今月初め、H&Mは110ページにわたる「意識行動サステナビリティレポート(Conscious Action Sustainability Report)」を公表した。
今回で13回目を迎える同年次報告書には
環境活動および同社工場で適正賃金を支払うための取り組みについて記載されている。
レポートの各データや取り組みはその多くが称賛に価するものだが(
例えば、全店で実施されている古着回収サービスでは約1万3000トンの衣料品が持ち込まれたことや、年末までに使用する電気の8割を再生可能電気にするよう取り組んでいることなど)、
環境擁護団体および社会福祉団体は、レポートにあるいくつかの矛盾点を指摘した。
まず米ニュースサイトのQuartzが、H&Mの使用している綿花の現状について明らかにした。
H&Mは、使用量は全体のわずか13.7%だが、世界で最もオーガニックコットンを使用している企業である。
以前も伝えたが、綿花とは世界で最も毒性の高い作物の1つだ。
有機消費者協会(OCA)の話では、世界の殺虫剤の約4分の1が綿花に使用されており、これは全農薬の12%に相当するという。
綿花の栽培にはまた極めて大量の水が必要とされる。
世界自然保護基金によると、綿花1 kg(Tシャツ1着分、あるいはジーンズ1本分に相当)の生産につき2万リットルの水が必要だという。
環境保護団体のグリーンピース東南アジアは、
先月公表した「デトックス・キャットウォーク(大手衣料品ブランドによる有害化学物質全廃への取り組みを比較した世界ランキング)」のレポートで、
H&Mを上位ランクに位置付けた。
同ランキングが目指しているのは、製品におけるパーフルオロ化合物の撤廃と、
内分泌かく乱作用のあるAps(アルキルフェノール)およびAPEOs(アルキルフェノールエトキシレート)の使用を、製造過程で禁止することだ。
だが一方でファスト・ファッションの「使い捨て」という考え方そのものには、
疑問が投げかけられている。
Quartzで指摘されたように、H&Mでは、3200件の店舗に対して、
少なくとも年間6億点のアイテムを製造している。
だが何千件にも及ぶ、例えばCOS(コス)(H&Mの高価格ブランド)のような
同社傘下のブランド店舗は、この数に含まれていない。
H&Mはまた、今年だけで、400件の実店舗および9件のオンラインストアを新規に立ち上げる計画としている。
ファスト・ファッションやEコマースによって、
ショッピングの選択肢はかつてないほど広がった。
だがますます多くの衣料品が今後、新しく購入したものと引き換えに捨てられることになり、結果として廃棄物の増加につながっていく。
実際、米国では、国民1人当たり平均約70ポンド(約32 kg)の衣料品や繊維製品が廃棄されている。
天然資源保護協議会(NRDC)のシニア・サイエンティストで、
Clean By Design(NRDCによる環境プログラム)のリーダーを務めるLinda Greer氏は、
「根本的に、ファスト・ファッションの服を大量に売ろうとする考えと、サステナブル(持続可能)な企業を目指そうとする考えとでは、考え方に食い違いがあるのです」と話す。
同氏はこれまで、大量の化学物質を必要とする繊維の染色・仕上げ工程で、
H&Mが浄化処理を行う際の手助けを行ってきた。
天然資源保護協議会(NRDC)はこれまで、H&MのほかTargetやGap、リーバイスといった有名ブランド企業と提携し、Clean By Designプログラムを通じて、
中国の繊維工場で各社の環境活動を改善してきた。
NRDCは先週、新たなレポートを作成し、
そこで、これらのサステナブルな大手ブランド企業らが、
水やエネルギー、化学物資などの使用量を大幅に削減することで、
年間1470万ドルのコストを削減していると述べた。
Greer氏は、「優れたファッションとはまた、環境に優しいファッションでもあります。
アパレル製造業とは世界で最も環境を汚染する産業の1つですが、
改善できないわけではありません」とし、
「ファッション産業が、コストを削減して環境汚染の問題も改善できるチャンスはたくさんあります。
Clean By Designプログラムでは、低コストで効果の高い解決方法を提案しています」と述べた。
縫製労働者の劣悪な労働環境
ファスト・ファッション産業による環境問題への取り組みだけでなく、
縫製労働者の劣悪な労働環境もまた重大な懸念事項である。
これは特に2013年にバングラデシュのラナ・プラザ縫製工場で起きた崩落事故を踏まえており、この事故では1100人もの犠牲者が出た(H&Mと当該工場との契約関係はなかった)。
2013年、H&Mは85万人の縫製労働者に対して、
18年までに「公正な生活賃金」を支払うことを約束した。
レポートでは、H&Mの業務のみを請け負っているバングラデシュの工場2件とカンボジアの工場1件を対象に、
「給与体系改善方式」を試験的に実施していると伝えられている。
またそこには、第1回目の評価がカンボジアの工場で実施され、
「時間外労働の減少、賃金の引き上げ、生産性の向上、労使間の対話の改善」
などがみられたと記載されている。
だがクリーン・クローズ・キャンペーン(縫製産業の労働組合とNGO団体の同盟)は、公正な生活賃金の支払いに関して
「達成までの進捗を表す具体的な数字」が示されていないとして、
同レポートを批判した。
カンボジア縫製労働者組合(C.CAWDU)のAthit Kong副代表は
「同レポートには、カンボジアやバングラデシュの現地の実態は正確に反映されていません。
H&MによるPR活動は、毎日必死に家族を養おうとしている労働者にとっては
『嘘くさく』聞こえます」と述べた。
H&Mが実施し全面的に管理している『サステナビリティ(持続可能性)』のための
ビジネスモデルは、現地の労働者団体や労働組合のことを心から考えて構築されてはいません。
これではH&Mの下で働く工場労働者にとっては全く代わり映えのない結果にしか終わらないでしょうし、制度面での虐待を取り繕うPR上の見せかけにしかすぎません」と続けた。
さらに H&Mが定義する「公正な生活賃金」とは、
正確には何を指しているのだろうか。
バングラデシュの賃金は世界で最も低く1カ月38ドルである。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、
カンボジアでは昨年11月、縫製労働者の1カ月の最低賃金が28%増の128ドルまで引き上げられたが、この金額が労組の要求を下回るものであったことから、
ストライキの増加につながるのではないかと伝えていた。
クリーン・クローズ・キャンペーンのCarin Leffler氏は、
「信頼性の高い、どのような類の賃金パイロット・プロジェクトでも、
あらかじめベンチマークを定めておく必要がありますし、一部の工場だけでなくすべての工場で進展のみられる、期限付きの明確な計画を盛り込んでおく必要があります」と述べた。
世界第2位のアパレル小売業者で、バングラデシュでの衣料品生産量が最も多いH&Mは、腐敗した繊維産業を改善する立役者になれるかもしれない。
H&Mによると、同社CEOのKarl-Johan Persson氏はこれまで、
バングラデシュ政府と2度会談したことがあるほか、
カンボジアを訪問し、同国の首相と最低賃金の引き上げや
時間外労働の削減など労働問題について話し合いを行ったことがあるという。
今年、ノルウェーのオンライン・ドキュメンタリー番組「労働搾取工場:死ぬほど安いファッション」で、若い女性3人(ファッション・ブロガーのAnniken Jørgensenさん、ファスト・ファッションが大好きなFrida OttesenさんとLudvig Hambroさん)が突然カンボジアの縫製工場に連れて行かれ、そこで1カ月間働いて過ごした。
3人は労働者らの貧困状態を知ってゾッとした。
そこでは賃金が低すぎて生計を立てることができず、
餓死した労働者や家族もいたのだ。
H&Mは、番組内で取り上げられた工場とは取引は行わないとしているが、
Ottesenさんは第5話で、「H&Mのような大手ブランド企業が、
なぜ何もしないのか理解できません。
H&Mは大企業ですし、相当な権力も持っています。行動を起こすべきです」
と話している。
つまり、安い衣料品にも本当の値段というものがあるのだ。
Hambroさんは「脱水症状と空腹で倒れるまで、12時間も座って縫製作業を続けるなどというのは間違っています」と話す。
「要するに、われわれは裕福でカンボジアの縫製労働者たちは貧しいということです。われわれはH&M のTシャツ1枚に10ユーロも払えるのですから。
しかしそのTシャツ1枚を売るために、だれかが飢えに苦しまなければならないのです」と続けた。
出典;
アパレルリソース